膝蓋骨脱臼
2021年4月19日
[膝蓋骨脱臼とは]
膝蓋骨とは“膝のお皿の骨”で、正常では大腿骨の滑車溝というくぼみの上にあります。膝蓋骨脱臼とは、この膝蓋骨が滑車溝の上からはずれてしまった状態で、内側にはずれる内方脱臼と外側にはずれる外方脱臼の2種類があります。
原因には先天性と外傷性がありますが、多くが先天性や発育期の障害と考えられています。特にチワワ、ポメラニアン、トイ・プードルなどの小型犬や柴犬ではよく認められる整形疾患で、若齢時(成長期)より徐々に進行が認められることがありますので、定期的な身体検査による診察をお勧めします。
[症状]
症状は軽度であれば無症状のこともありますが、片足をあげる、足を後ろに伸ばす・蹴り上げるような仕草などが一般的です。オーナー様の中にはわんちゃんを抱っこしたり、足を触ったりした際に「カクッ」とした感触で気づかれる方もいらっしゃいます。骨の変形を伴う場合には、X脚(内方脱臼時)やO脚(外方脱臼時)になる場合もあります。
また膝蓋骨脱臼を伴うワンちゃんでは前十字靭帯の損傷を起こしやすいということもいわれています。
[グレード分類]
臨床的には下記の4つのグレード分類で評価されることが多いです。
グレードⅠ | 触診にて膝蓋骨を脱臼させることができるが、手を放すとすぐに戻る |
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グレードⅡ | 膝蓋骨の脱臼が、足の伸展時や歩行時などに自然に発生する |
グレードⅢ | 常に膝蓋骨が脱臼している状態。手で戻すと元に戻るが、離すとすぐに脱臼してしまう |
グレードⅣ | 常に膝蓋骨が脱臼している状態、手で押しても脱臼は整復できない |
グレード毎の治療内容については様々な意見がありますが、臨床症状を伴う場合には外科手術の適応になることが多いと思います。
[治療]
治療は内科治療と外科治療があり、脱臼のグレード・年齢・症状の有無・骨格変形の程度などを総合的に判断し選択します。
内科治療はあくまで保存治療となります。体重管理、関節系サプリメント、鎮痛剤、リハビリテーション、生活環境の整備(滑り止めなど)を組み合わせて治療プランを考えていきます。
外科治療は以下のいくつかの手技を組み合わせて、膝蓋骨の脱臼を整復します。
骨組織に対しての処置
- 滑車溝形成術
- 脛骨粗面転植術
- その他
軟部組織に対しての処置
- 内側(外側)支帯の解放
- 外側(内側)関節包の縫縮術
- その他
○症例1 (膝蓋骨内方脱臼)
3歳の女の子のチワワちゃんで、以前から『膝は緩い』と他院でも言われており精査、治療を主訴に来院されました。症状としては時々左後ろ足を挙げるとのことでした。
触診、レントゲン検査より膝蓋骨の内方脱臼GradeⅡと診断しました。
オーナー様は手術希望でしたので、滑車溝造溝術、関節包の縫縮術、脛骨粗面の外方への転植術を実施しました。
術後の経過は良好で、後ろ肢を挙げるという症状も見られなくなりました。
○症例2(膝蓋骨外方脱臼)
7歳、男の子のトイ・プードルちゃんで、腰が沈んだように歩くということで来院されました。触診、レントゲン検査では膝蓋骨の外方脱臼GradeⅢでした。
滑車溝形成、内側関節包の縫縮術、外側支帯のリリース、ピン2本で内側にずらした脛骨粗面を固定してます。
左側は術前の写真です。座っているように見えますがこの姿勢で歩いていました。
右側が術後の写真です。術前と比べると腰があがって歩けています。
外科治療の適用に関しては、臨床症状の有無、経過、年齢、体重、その他の併発疾患(特に前十字靱帯断裂)の有無などを基に決めていきます。また骨の変形が重度で特殊な処置が必要な場合や、飼い主様が専門医での治療を希望される場合には整形外科の専門医がいる二次診療施設にご紹介させていただくこともあります。『膝蓋骨脱臼(パテラ)と言われたけどよく分からない』や『治療法には何があるの?』など何かわからないことがありましたら、まずはお気軽にご相談ください。