犬の乳腺腫瘍
2021年2月4日
[概要]
犬の乳腺腫瘍は、高齢の避妊されていないメスにおいて最も一般的に発生します。乳腺腫瘍の発症原因には性ホルモンや遺伝的要因の関与が報告されており、その発症リスクは早期の避妊手術により軽減されることが知られています。
乳腺腫瘍の良性と悪性の割合は、約50%が良性で残りの50%が悪性といわれています。近年は小型犬のほうが中~大型犬よりもより良性腫瘍の割合が高いことが知られています。
また組織学的に悪性の腫瘍であっても、そのうちの約半分(全体の約25%)は悪性度が低いことが報告されており、多くの乳腺腫瘍は早期の手術で良好な経過を得ることができます。
*わんちゃんの乳腺腫瘍
[診断]
乳腺腫瘍の診断には身体検査(腫瘤の部位、数、大きさ、固着の有無)が重要となります。また細胞診(FNA)検査は乳腺腫瘍の確認や領域リンパ節への浸潤の判断に有用となります(細胞診では乳腺腫瘍の良悪の鑑別はできません)。
さらに乳腺腫瘍が疑われる場合には、臨床ステージングのために下記の検査も必要となります。
・血液検査(全身状態の評価)
・胸部のレントゲン(肺への転移の有無)(必要であればCT検査)
・腹部超音波検査(腰下リンパ節群への転移の有無、他疾患の存在)
・血液凝固系検査(一部の悪性乳腺腫瘍では凝固系に異常を示すことがあります。)
以上の検査により乳腺腫瘍の診断と臨床ステージの判定を行った上で、治療方針を決定します。
[治療方法]
犬の乳腺腫瘍では細胞診による確定診断が困難なこともあり、確定診断(良性悪性の判別、組織型、組織学的グレードなどの評価)と治療を目的に多くの症例では外科的切除が第一選択となります。
一方、麻酔が困難、進行したステージ(既に転移が認められるなど)、炎症性乳がんが疑われるといった場合には手術が不適となることもあります。
手術方法には腫瘤のみの切除、領域乳腺の切除、片側あるいは両側乳腺全切除がありますが、乳腺腫瘍の位置、数、大きさなどにより切除範囲が異なります。
化学療法はすでにステージが進行している場合や外科手術後の補助療法として実施されることがあります。
[予後]
犬の乳腺腫瘍の予後因子としては、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、組織型、組織学的グレードなどが報告されています。
わんちゃんの乳腺腫瘍の予防は、早期の避妊手術が最も効果的です。新しくわんちゃんを迎え入れて、避妊手術に対して迷われていたり、ご不明な点がありましたら是非ご相談ください。
またわんちゃんの乳腺腫瘍の多くは早期の診断・治療で根治可能となります。既に進行した場合にも緩和的な治療や痛みの管理なども有効となります。
実際に当院にかかられる場合においても多くは飼い主様自身で発見されて、ご相談いただくことが多いと感じます。
わんちゃんの胸にしこりがある、あるいは手術をしたほうがいいのか悩んでる、などのお困りの点がありましたら、まずはお気軽にご相談ください。